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最後の一等地へ投資した中国不動産企業 上海通信  芝田優巳

上海随一の観光エリア外灘


 上海に旅行に来られる方が、必ず訪れると言っても良い程の上海随一の観光エリアがあります。それは、外灘(ワイタン。英語名は、The Bund)というエリアです。
外灘は、上海の浦東地区と浦西地区を2分するように流れる黄浦江の西側を走る全長約1Kmほどのエリアです。
 このエリアは、19世紀から20世紀前半まで続いた上海租界地の中心でもありました。
 当時建築された50数棟の西洋式建築物が今でも残っており、かつては上海の政治・経済・文化の中心地であったことから、重厚で厳かな銀行・官公庁関連の建物が立ち並んでいます。
 建物内には、レトロな雰囲気を生かして作られたオシャレなバーやレストランも多く、また、最近では、建物の1階にジョルジオ・アルマーニ、カルティエなどといったブランドショップが入居する例が増え、観光スポットとしてのみならず、高級ショッピングエリアとしても注目されています。
 黄浦江の西側にある外灘の対岸には、陸家嘴金融地区があり、外灘からは、陸家嘴の高層ビル群を臨むことができ、外灘は、1年中、観光客で賑わっています。かつて東洋のパリとも評されていた頃の西洋式建築群と陸家嘴エリアの近未来的な高層ビル群のコントラストは、世界にまれに見る風景だと思います。
 外灘には、昨年、香港上海ホテルズ(HSH)が運営するペニンシュラホテル上海(The Peninsula Hotel Shanghai)がオープンしています(ペニンシュラホテルとしては世界で9軒目です)。ペニンシュラホテルが建てられた場所は、元イギリス領事館があった場所です。ここは、外灘源とも言われ、言わば、外灘発祥の地でもありました。HSHは、20世紀前半までは、上海で4軒のホテルを運営していたことから、故郷への凱旋とも言われ、注目が集まりました。
 ペニンシュラホテル上海から、陸家嘴の高層ビル群が臨めることから、立地コンセプトは、中環(セントラル)の高層ビル群を臨めるペニンシュラ香港と同じと言っても良いかもしれません。


外灘の貴重な開発用地に集まる注目


 今年の2月、外灘の南にある開発用地が92億2,000万元(約1,250億円)で落札されました。この開発用地は、敷地面積45,471.9平方mの上海外灘国際金融サービスセンター(8−1区画)と呼ばれるエリアです。このエリアには、オフィスビルや商業施設など、27万平方mの建物が建てられる計画になっています。
 落札価格は過去最高額で、新たに上海で「地王」(土地競売で、過去最高額で落札したデベロッパーのことをこう呼びます)が出現したと、マスコミでもこぞって取り上げられました。
 落札したのは、不動産開発・投資を中心に、旅行関連業も展開する香港メインボード上場企業である上海証大房地産有限公司(Shanghai Zendai Property Ltd )傘下の「上海証大置業有限公司」という不動産会社です。この競売には4社が参加しましたが、競売の様子がテレビでも放映されるなど、大きな話題となりました。
 競売で落札されたと書きましたが、日本と中国では、「競売」という概念が異なります。
 中国では、土地が国のものであることはご存知の方も多いことと思いますが、土地(正確に言えば土地使用権)を新たに供給する際には、「競売」という形を取るのが原則です。従い、新たに土地が供給されるような場合には、日本のように所有者(中国では国家)と購入希望者が相対で価格を決めることはありません。また、土地使用権売買で特徴的なのは、規模が大きい(金額が大きい)ということです。従い、実力のあるデベロッパーでないと競売には参加することすらできません。逆に、実力には疑問符が付いても、デベロッパー以外の資金力のある企業が競売に参加し、落札する例もあります。
 以前、JVのアレンジメントをしていた頃、ある香港系デベロッパーに、10万平方m(地上50数階建)の複合ビルを建設できる広州市の一等地のプロジェクトを紹介したことがありました。先方からは、10万平方mでは小さすぎて話にならない、最低でも100万平方mは欲しいと言われて唖然としたことを覚えています。しかし、冷静に考えると、実際、この企業は大連市で300万平方m以上の開発をする計画を発表していたので、担当者が話していたことは決して大げさではないと感じたものです。
 このような豊富な資金力のある企業が高額で落札してきた結果、土地価格、ひいては住宅価格を上昇させたとして、3月中旬には、国有資産監督管理委員会は、不動産を本業としない中央政府直轄国有企業78企業グループに対し、不動産事業からの撤退を命じました。撤退を命じられた企業には、中国石油大手の中国石油化工(シノペック)、中国海運大手の中国遠洋などが含まれています。中国メディアは、78社が保有する不動産・土地使用権の簿価は1,000億元(約1兆3,500億円)前後あり、これらの土地が一度に放出されれば、中国の不動産市場が値崩れを起こす可能性もあると報道しています(この報道のとおりになれば、今年の秋頃には、バーゲンセールが始まるかもしれません)。


外灘最後の一等地を譲り受けた中国企業


 6月の中旬、外灘最後の一等地と言われていた開発用地の権益の一部を、中国企業が購入しました。正確に言えば、開発権を有している会社の株式の約6割を譲り受けたのですが、このNEWSも、前述した「地王」ほどではないものの、大きく取り上げられました。
この開発用地は、外灘204区画と呼ばれるエリアで、敷地面積が22,465平方mあり、オフィス・商業施設・ホテルなど建築が可能なエリアです。
 購入したのは、SOHO中国有限公司(SOHO China Ltd.以下、SOHO中国と言います)というデベロッパーです。204区画全体で189,000平方m(内、地上面積は112,312平方m)の建物が建てられる予定ですが、このうち、株式譲渡により、81,000平方m(内、地上面積69,000平方m)の建物を開発できる権利を得ました。
 SOHO中国は、香港メインボードに上場し、主に、北京で不動産開発を行っている中国大手不動産企業です。
204区画は、前述した8−1区画よりも外灘中心部に近いエリアに位置します。それだけでなく、豫園(明代に造られた、400年以上の歴史を持つ古典庭園。外灘と並ぶ上海の観光スポット)にも近く、陸家嘴の中心エリアを臨むことができる立地の良さがあります。ちなみに、204区画の対岸には、台湾系のデベロッパーが開発した湯臣一品(TOMSON RIVIERA)という超高級マンションがあります。販売単価は、建築面積ベースで15万元/平方m(約200万円/平方m)で、東京の高級マンションを上回ります。部屋面積は、400〜1,200平方mですから、総額は6,000万元〜1億8,000万元(約8億円〜24億円)です。いかに高級なマンションであるかがお分かりいただけると思います。
 204区画譲渡のNEWSが注目されたのは、外灘の最後の一等地であったからのみではありません。開発権を有する会社の株を譲り受けたのが、SOHO中国であったからです。
 SOHO中国は、北京でSOHOビル(複合施設)を多数建設し、成功を収めている企業です。SOHOとは、皆様ご存知のように、元々はsmall office/home office を意味しますが、SOHO中国が北京で展開するSOHOビルは、一般的なSOHOのイメージとは異なるものです。SOHOビルは、どれも個性的です。中には、日本でも有名な国際的な建築家である隈健吾氏が設計したものもあります。SOHOビルは、いわゆるSOHOとしての機能だけではなく、商業施設も擁し、ファッション性も備えています。SOHOビルに住むことは、若い人達への最新のライフスタイルの提案でもあり、北京ではこの提案が受け入れられていると言えます。


SOHO中国による上海不動産投資


 SOHO中国は、これまで北京を中心に開発を進めていたのですが、昨年の8月に、上海中心部 にある高層ビル「東海広場」をモルガンスタンレーから購入しました。これを足がかりに、上海進出を図ったのです。東海広場の購入により、SOHO中国が潤沢な資金力を誇示したことや、これだけの規模のアセットを中国国内企業が購入したことは、市場に大きなインパクトを与えました(これまでは、モルガンスタンレー、ゴールドマンサックスなどといった外資系企業が上海の不動産に投資していたことが多かったのですが、これを機に、中国国内企業による不動産投資が目立つようになりました)。
 東海広場は、52階建てのオフィスビルです。2006年4月までは不良債権としてポツンと建っていたものをモルガンスタンレーが2億5,000万ドル(約19億元)で購入し、竣工させたものです。不良債権と言っても、外壁の一部と内装ができていなかっただけで、52階までは建てられていましたので、非常に目立つ建物でもありました。モルガンスタンレーが購入するまでは、52階建てで規模が大きいこともあり、あのビルはこのまま不良債権として残ってしまうのではないかとさえ言われていました。ちなみに、SOHO中国が東海広場を購入した価格は24億5,000万元(約330億円)ですから、売却したモルガンスタンレーは、不良債権を竣工させるまでに要した内装工事費用などを差し引いても3、4億元のキャピタルゲインを得たことになります。
 東海広場を購入した際、SOHO中国の代表である潘石屹氏は、上海に進出する理由を、上海は北京と共に成熟したエリアであるだけでなく、上海のオフィス、リテールは、住宅と比較してまだ価格が安いうえに、大きな滞在力があると話しており、次にどんなアセットへ投資するのかに注目が集まっていたのです。
 ところで、話は少しそれますが、中国では、土地の価格が低いのか高いのかについては、日本のように、土地面積当りの単価で表示する習慣はありません。通常は、楼面地価と言って、総建築面積当りの単価で表示します。
 8−1区画の楼面地価が、34,100元/平方mであったのに対し、SOHO中国が購入した2−1区画の楼面地価は32,600元/平方mでした。昨年度の上海の住宅地の平均楼面地価は7,230元/平方mでしたので、この水準と比較すれば、外灘エリアの二つの楼面地価水準がどの程度の水準であるかお分かりいただけるかと思います。
 SOHO中国の役員のひとりは、204区画の楼面地価は、購入する価格としては非常に妥当な価格であるとコメントしています。この価格は、SOHO中国が、この区画を譲り受ける為に譲渡主サイドと度重なる交渉を経たうえで成立したものであるようなので、苦労の末成立した価格に大変満足しているようにも思えます。私の目から見ても、このエリアのロケーションから考えると、この価格は決して高くはなく、むしろ安いくらいの価格であると感じます。
 SOHO中国の役員は、このエリアの商業施設の現在の賃料水準は、専有面積ベースで約40〜50元/平方m・日であるが、204区画プロジェクトが完成する予定の2013年下半期には、まだまだ賃料は上昇するであろうと予測しています。


SOHO中国の投資スタンス


 数ヶ月前、SOHO中国の代表である潘石屹氏は、投資するならば北京より上海が良く、現在のところ、上海への投資額は会社全体の10%に満たないが、これから3、4年間は上海への投資を加速すると公表していました。今回の投資は、まさに狙いどおりの投資であったことでしょう。
 潘石屹氏は、東海広場への投資と204区画への投資を明確に分けています。
 東海広場は、上海中心部にあるオフィスであるのに対し、204区画は、周囲に交通の中枢とも言えるエリアや、豫園などがあり、旅行客など人の流れが多く、また、商業施設とオフィスなどの複合施設計画であるため、二つの異なるタイプの投資をしたと考えているのです。
 上海での二つの異なるタイプの投資を経験したことで、SOHO中国は、自信を深めているようです。潘石屹氏は、204区画を譲り受けた後、現在ある140億元の現金のうち、昨年と同様に、今年も100億元程度の投資をしたいとコメントしていました。また、現在、政府の発令した新政策の影響で住宅マーケットが影響を受け、成約量が落ちているのは明らかであり、成約価格も下落する可能性がある一方で、新政策の商業不動産への影響は大きくないので、今後は、良い商業施設に投資したいとコメントしています。
 SOHO中国が、次にターゲットにする上海の商業不動産が何なのかに注目したいと思っています。


芝田優巳(しばた ゆうじ)
株式会社シノケングループ 経営企画部 海外事業部 課長
不動産鑑定士 税理士 上海在住歴4年
早稲田大学大学院商学研究科修了
中国では、不動産市場調査、鑑定評価、不動産投資コンサルティング業務、JVのアレンジメントなどを経験。
現在は、中国不動産コンサルティングなどを行う一方、中国人向け日本不動産投資コンサルティング業務も行うなど、日中両国の不動産ビジネスに携わっている。
(お問い合わせは、y-shibata@shinoken.co.jp)

2010年8月号