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耐震偽装越えV字復活 不動産シノケン 業績最高に

 2年前、全国を揺るがした耐震強度偽装事件。マンションやホテルを施工した木村建設(熊本県八代市)や不動産のヒューザー(東京)が破産に追い込まれる中、不動産のシノケン(福岡市)は難局を切り抜け、「復活」をとげ、ホテル事業にも乗り出した。不動産市況の回復が追い風になったが、思い切った補償策が評価された点も大きい。(米谷陽一)

素早く補償30億円 損失拡大食い止めた

 シノケンは2日、米国の投資ファンドと共同で来秋、那覇市中心部の国際通りの近くにホテルを建設すると発表した。
ビジネス客と観光客の両方がターゲットで、70ある部屋は広さ25平方メートルが中心のゆったりしたつくりだ。
 今後3〜4年で国内や中国・上海で10軒程度のホテルを開業する予定で、年間30億〜40億円の売り上げを目指す。本業のアパート・マンションに次ぐ柱にする考えだ。篠原英明社長(42)は「事件の影響は完全に克服した」と言い切る。
 同社は、販売した耐震強度不足のマンションの代金返還で06年3月期は約6億円の当期赤字に転落した。だが、07年3月期は全国でアパート160棟、マンション11棟を販売。売上高196億円、当期利益7億円で、ともに過去最高になり、業績は「V字回復」した。
 今年度の販売計画はアパートが前期の6割増になる255棟、マンションは3割増。売上高、利益とも過去最高を更新する見込みだ。
 不動産市況の回復も追い風になった。地価の上昇などで販売価格が上がり、利益を確保。東京などの不動産ファンドからは、マンションの新規着工への問い合わせが急増しているという。
 1年半あまり前の05年11月29日、篠原社長は木村建設やヒューザーの社長らとともに、参考人として衆院国土交通委員会に出席した。
 いずれも姉歯秀次元建築士に「コスト削減の圧力を受けた」と名指しされ、偽装を指示した疑いをかけられていた。
 だが、篠原社長は木村建設に施工の依頼はしたが、元建築士とは会った覚えもない。「直接関与していない」という確信があった。
 「偽装のあったマンションを造ったことに責任を感じています」「購入代金返還で誠意を示したい」。居並ぶ議員を前に落ち着いて答弁できた。
 その後、手がけたマンション全30棟の構造再計算で姉歯元建築士が強度を偽装した7棟以外に問題がないことが確認されると、すぐメーンバンクの福岡銀行に融資を求めた。そして、マンションの販売会社に返金作業を依頼。顧客をひとりずつ説得し、約30億円かけ、事件発覚から2ヶ月あまりで購入者計110人への補償やマンション計127戸の引っ越しを、ほぼ終えた。
 市内の不動産会社に勤めていた篠原社長が90年に設立したシノケンの売上高の7割は独身向け木造アパート。素早い動きの背景には「主力のアパートまで疑われてしまう」という不安もあった。
 企業の危機管理に詳しい国広正弁護士は「不利な事実も公表し、補償などに素早く対応するという危機管理の基本通りだ」と評価する。それが損失の拡大を食い止めた。
 同社は事件後、建物の構造計算書を面識のない別の設計士が検証する「クロスチェック」の仕組みをとり入れた。「本当に勉強になった。自分の身は自分で守るということが身にしみた」と篠原社長は振り返る。

平成19年8月5日日曜日付(朝刊) 朝日新聞より